三木酒店|こまごめぐるぐる vol.7

こまごめぐるぐる vol.7 
三木酒店

三木酒店

日本酒ののぼりの横には、ワインの樽やビール、泡盛、ラム、紹興酒……そして、なんとお味噌まで!
一歩足を踏み入れると、気になる商品が次々目に飛び込むこのお店は、もう百年近く駒込で営業する老舗の酒屋さん。
霜降銀座と染井銀座、これまで二つの商店街の切れ目を明確に意識したことはなかったけれど、三木酒店があるのはこの切れ目のあたり。

店に歴史あり

お店を立ち上げたのは現在の店主・寛司さんの祖父である清造さん。関東大震災後に山梨から上京し、市電の運転手をしていたが、お酒好きが高じて自ら酒屋を開くことになったのが始まり。当初はもっと商店街の奥、たばこ屋の山茶花のあたりにありましたが、昭和20年の山の手空襲で被災。戦後に同じ場所付近でお店を再開したとのことですが、ではいつ今の場所に?
そのキーマンとなるのは寛司さんの父・清一さん。陸軍経理学校の学生だった清一さんは、終戦の3か月前に召集され、満州で敗戦を迎え、シベリアに約4年抑留された後に帰国。北区にあった日産化学に就職するも、ソ連帰りであることを理由に赤狩りにあい、退職。この退職金を元手に、現在の店舗がある場所を購入し移転。ここから実質的に清一さんが店主となって店をはじめます。
寛司さんは子どもの頃からお店の手伝いをしていましたが、清一さんが体調を崩したことをきっかけに、本格的に働き始めたのは25歳頃。当時はPOSレジではなく、すべての商品の値段を覚えていたと言います。位置や広さは現在と変わりませんが、当時は木造で店先には昔ながらの酒屋らしい、様々な銘柄の金看板の看板が並んでいたと言います。
その後、昭和の終わりに店をリニューアルし、マンションのメゾンドミキと一体化した現在の様子になりました。

個性が光る品ぞろえ

清一さんの代からワインや洋酒に力を入れていて、昭和の頃から他店に先駆けてワインセラーを設置していた三木酒店。清一さん自身は特別お酒好きというわけではなかったものの、工夫を凝らすのが好きで、購入者向けにスタンプカードを取り入れ、集めたポイントでグラスなどの景品と交換できる仕組みを作っていたそうです。寛司さんも商店街若手有志とともに西ヶ原・染井エリアの情報を紹介するじもつーMAP(地元通の情報紙)を発行するなど、商店街・地域とのつながりを大切にしながら、ユニークな発想でエリアを盛り上げてきました。
寛司さんは、量こそ多くは飲まないものの、様々なお酒を味わうのが好き。その探求心が、店のユニークで幅広い品ぞろえにつながっています。中でも、国産のお酒は生産者と直接話してこだわりや想いをくみ取った上で仕入れているのが特徴。
おすすめは店舗入口付近でも紹介している菱山中央醸造のワイン。勝沼の銘醸地である菱山地区の恵まれた土地で、地域のぶどう栽培農家が地域のために丁寧に作っているワインはラベルのないシンプルな佇まい。勝沼エリア以外で手に入るのは、実はここだけ!?
その他に、限られたお店でしか入手できない小布施ワイナリーのワインも20年近く前から取り扱っているなど、寛司さんの目利きと仕入れ力が光ります。
店頭に並ぶお酒の顔ぶれは、その時々で少しずつ変わりますが、現在は泡盛とクラフトジンが充実。「やっぱりいろんな種類があると楽しいよね」と語る寛司さん。沖縄の問屋さんと直接やり取りして、現地の個性あふれるお酒を仕入れています。他にも青ヶ島だけで代々醸されてきた“幻の焼酎”ともいわれる「青酎」など、個性的なお酒もラインナップ。

万人に受ける定番は押さえつつ、しっかり“クセあり”や“尖った一本”を取り入れる、そんなセレクト力もまた、寛司さんらしさです。
商品選びも、もちろん気軽にご相談を。「どんな料理と合わせたいか教えていただけたら、ペアリングも提案しますし、お酒の背景にあるストーリーもお話しますよ」と寛司さん。

昔ながらの酒屋は、味噌も売ってた

レジの前には、味噌樽に入ったお味噌が6種類。父の清一さんの代には倍以上の量を並べていたと言います。お酒だけでなく、味噌や醤油などの調味料も扱うのが、昔ながらの酒屋の姿。
銘柄とグラム数を伝えて、袋に包んでもらう、なんだか懐かしくてあたたかい光景。入れ物は、タッパーなどを持ち込んでもOK。

変わらないもの、変わるもの

駒込の地に根差して100年。お酒を飲む人の数も、かつてに比べて少なくなり、今やお酒は“酔うため”ではなく、“楽しむもの”に。酒屋のあり方も、地酒専門店やワインショップなどに細分化されつつあります。そんな時代の中で、昔ながらの姿を大切にしながらも、変化にしなやかに寄り添い、堅実に営まれている姿勢が、結果として他にはない独自の魅力につながっているのだと思います。そんなお店が、この商店街に今もあることが何より嬉しい。
これからもふと立ち寄ってのぞく時間が楽しみです。

インタビュー・文・絵 ぬみぃ

 

「三木酒店」
東京都豊島区駒込3 ― 29 ― 7

お店のHPはこちら

こまごめぐるぐるPDF版はこちらから

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